2023年4月4日
当店は、江戸小紋のお誂え処として開業以来、これまでにもう数えきれないほどの江戸小紋をお染めしてまいりました。
お誂えは、お客様のお好みの色で、お好みの柄をお選び頂きお染めしています。そして、ご希望の方には八掛のオーダー染めも承ってまいりました。本日は、表地の色柄はもちろん、八掛にも思い入れのある図柄を手描き友禅の作家さんにお願いしてお染めしたスペシャルな「お誂え」をご紹介いたします。
(本当はお仕立て上がってお召し下さったお姿をご紹介できれば良いのですが、これから仕立てさせて頂きますと、ご着用は秋以降のこととなり…その頃、当店は閉店時期となってしまいますので、お仕立て前に画像を取らせて頂きますことをご快諾下さいました)
江戸小紋「鶴亀」に
月兎の恋文八掛(お客様オリジナル)
まず、江戸小紋はこちら。「茄子紺色」の「鶴亀」です。鶴と亀、どちらも長寿のお守りで、特に亀の後ろに伸びる帯状の「蓑(みの)」がとても美しい文様の江戸小紋です。この蓑がある亀は長寿の中でもより元気で長生きの亀さんと言われています。
お客様のM様は、うさぎ年の今年に還暦を迎えられるに際し、記念の「お誂え」でもございます。
でしたら、せっかくだから干支の「うさぎ」文様はいかがでしょう?いえいえ、それは隠しておきたいわ!ということで、表地は堅実にコツコツ歩む「亀」文様をお選び頂きました。亀には鶴さんが一緒に描かれて、これからの人生の元気な歩みと飛翔を祈る縁起柄となりました。
お色もうっすらピンク味のあるものもご検討されましたが、しっとりとして、ほのかな華があり、ちょっぴり粋なこちらのお色でお染めすることになりました。
そして江戸小紋が染め上がる頃、「八掛のことを相談にのって欲しいです」とご連絡下さいました。
お客様は以前より、東京手描き友禅作家「染谷洋」先生の作品をとてもお気に召して下さっています。なので、染谷先生に八掛を染めて頂きたいの!とのご相談に、「あっ、八掛にうさぎ、ですね」と思わずピョンと気持ちが弾んでしまいました🐇。
手描き友禅作家さんへのオーダーでは、できましたら、お客様がイメージする絵や写真などをご持参頂いて、まずは店主の私と色んな想いやイメージをご相談させて頂くことから始まります。
例えば、この度お客様がお持ち下さったのは、こんな絵。それを元に作家さんに下絵を発注するに当たり、ヒアリングさせて頂いた内容を書き込ませて頂いたりして、ちょっとしたご提案を申し上げたりしています。
この度は、そのご相談のおしゃべりの際に、思いがけない嬉しいお言葉をお聞きしました!
「染一会さんのロゴマークが好き」「えっ~っっ本当ですか!」つまりその、恋文を柳の枝に結んでいる月兎を好んで頂いていたとのこと。
何気なく玄関に鎮座している行燈に描かれているのが当店のロゴマーク(柳に恋文月兎)です。このマークは、納品の際にお包みしてきた風呂敷や、封筒や、色んなところにこっそり登場しています。
実は、お客様のM様は、当店がここ北青山に移転する前、神宮前の店舗の頃から折に触れ長いお付き合いを下さっています。本当にありがとうございます。ずっと、このうさ子を好きでいて下さったことに、しみじみと嬉しくて、心より感謝申し上げます。
でもね、お月様は三日月で、雪輪が欠けたみたいなのが良くて、それでね、柳に恋文を結んでいる兎がいいのです。というのは、この和歌の一節を入れて欲しいから。
恋ひ恋ひて逢へる時だに
愛(うつく)しき言尽くしてよ
長くと思はば
(大伴坂上郎女)
「愛しき言葉を尽くしてよ」と願う気持ちを着物の裾に隠しておく。しかもその気持ちは、兎がそっと柳の枝へと結んだ文の中。
色んなお話をメモにして、その奥ゆかしくも情愛深く、切なくも美しい情景を、心にしみる絵にして頂けますように、染谷先生に託しました。
最初の下絵はモノクロで、ささっと手描きで作って頂きます。この際(お客様にはお見せしていないのですが)私と染谷先生の間で兎の形についてのやりとりがありました。こんな兎、こんな兎、そして最後に凛とした兎が良いのではないかと、完成系の兎となったのです。
色の配置は、作家さんのご提案にお客様のご希望をお聞きして、最終決定いたします。うさぎの白は胡粉の白、赤いつぶらな瞳と、ほんのりピンクに色づいた耳と鼻、結び文に託した気持ちが兎の表情からもにじみ出る、素晴らしく愛おしい絵が仕上がりました。
長く長く、続きますようにと願う、うさ子の想いを、鶴や亀もずっと永遠に見守ってくれることと思います。
これからお仕立てをさせて頂きます。月の美しい秋の日に、きっとお袖を通して頂けますように。。。
この度は時間をかけて、お客様だけの、お客様だからこその一枚をお作りいたしました。
大事なお着物として末永く愛して頂けますように、皆さまの想いを形にできることをとても嬉しく思います。
当店でお誂えを承ることのできる時間はもうあまり長くはありませんが、どうか皆さまのお着物ライフが、丁寧に心を込めて長く続きますことを祈っております。
M様、初めてお店をお訪ね下さってからもう14年が経ちました。最初にお会いしてからしばらくの間、お目にかかれない年月がありましたのに、忘れずにブログやサイトを覗いて下さり、また数年前から親しくお会いできるようになったこと、とてもありがたく嬉しく思っておりました。お元気なお姿を拝見すると、お仕事もご家族も色んな月日を過ごされて、充実した人生を愛しんでこられたのだなとわかります、店主の私とは兎仲間でもありますから。そんなM様を頼もしく誇らしく思いながら、この度送り出すお着物が、今後のM様の年月にずっと長く寄り添わせて頂けますことを心より祈っております。
ある日のお召しの姿を思い浮かべつつ、うさ子の想いもきっとずっと叶いますように、心を込めて、ありがとうございます。
*お知らせ*
お店では、お客様おあつらえ写真集にご登場頂けますお客様をお待ちしております。どうぞぜひ、おあつらえ下さいましたお着物で、遊びにいらして下さいませ!!または、ご着用のお写真をお送り下さいましても嬉しいです。(お顔NGの場合はそのようにさせて頂きますのでご安心を)楽しみにお待ち申し上げております。
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