2023年10月31日
きもの 江戸小紋「染一会」
表参道の裏通りに そのお店はありました。
地下鉄「表参道」の駅からすぐのハズなのに、狭くてこちゃこちゃした道に小さなお店が乱立する裏通りは、迷子多発エリアです。
全然辿り着けないよぉ~。仕方ない、お店に電話してみよっ!(なんてこともありましたね)
セブンイレブンの斜め前「ピンクの暖簾」が目印ですって、あっ、あれだ!ようやく見つけて、ホッとすると、玄関で店長さんが心配そうに出迎えてくれました。こんにちは。でもピンク?随分色あせてしまってますね。
はい、毎年掛け替えてきましたが、一年も経つと趣のある色合いになるんですよ。
なるほど~色あせてる感じがちょっと安心するかも。
あっ、兎の行燈。兎がマークなんですね。
そうです。この子は柳に恋文を結んでいる月兎。私が書いた絵をマークにしたんですよ。へぇ~可愛いです。
そうなんです。お客様以外にも、この街区の通行人の皆さまにも愛して頂きました。時々、夜の間に開運大福のシールが貼られていたり、ジュースがお供えされてたりするんですよ。うふっ🐇
暖簾をくぐると、おっ、ちょっと着物屋さんっぽいですね。
ありがとうございます。この文字は書道家の人に書いてももらったんですよ。読めるかな?「そめいちえ」と申します。
いい名前ですね、染一会。はい、うんと考えましたから(*^^*)。
まぁまぁ、どうぞ中へお入り下さい。
すみません、お履き物を脱いで階段を上がって頂かなくてはいけなくてご面倒をおかけしますが、2階のお店でゆっくりとお寛ぎいただけますので、どうぞどうぞ。
えっ?ここにも、兎。
はい、この子たちは信楽焼なのです。ピョンとピョ子って名前です。開業時からず~と番兎として働いてくれています。何しろ私が一人で切り盛りしているものですから人手不足なんです。兎の手も借りなくては!大変働き者なのですよ。それでお客様に手編みのマフラーをプレゼントしてもらったこともあるんです。
へぇ~こんにちわ。はい、こんにちわ!
うわ~っスゴイ!これは、何ですか?
これは着物を染める型紙で伊勢型紙というのですよ。和紙と組み合わせてライトアップしてオブジェにしました。階段上がるのが辛くならないようにと思いまして。
なるほど、どんどん近づいて行きたくなりますもんね。とっても素敵です✨
ありがとうございます、嬉しいです。これまでも、たくさんの人が褒めて下さって、写真を撮っていかれたりしたんですよ。
なっ、なんと、階段の踊り場にも兎。
そうなんですよ。ここが階段の曲がり角なので、2階までもう一息!というわけで、ここで三味線をかき鳴らしてお客様をお迎えしているハズなんですがね、結局まったく上達しませんでした。まっ、誰もいないよりも居てくれるだけで助かってますけど。しつこいですが一人で切り盛りしてまいりましたもので、寂しさもあってね。
そうなんですね、君たちも良く頑張りましたね。こんにちは。
さっ、この暖簾の向こうがお店です。この季節の暖簾は、お月見兎です。春は桜のお花見兎、夏は波兎の暖簾をかけていたんです。
さっきから兎ばかり目に入ってきて、お店に入る前にもうすっかり気持ちがふわんとしてきました。
そうですか、えへへっ、呉服屋さんって緊張するでしょ?だから、皆さまがそんな気分になってくれればいいなと思って。ホントは全然緊張のいらないお店だったのですけどね。
うわ~明るいですね。はい、おかげ様で昼間は光が良く入ってくれるんです。さぁさ、お椅子におかばんを置いて寛いでください。
あっ畳のスペースもあるんですね。はい、ここでたくさんの皆さまにご試着も頂いてきたんですよ。
座ってもいいですか?もちろんです。このテーブルで四季折々のコーディネートを繰り広げたり、お茶とお菓子でお客様と延々とおしゃべりしたり、長い長い時間を過ごして頂いてきました。
ほんとだ、履物脱いで座ると落ち着きますね!
あっ、あの窓辺、時々商品の写真を撮影していた場所ですね!ここなんだ~。
はい、そうです。朝早い時間は陽の光が入らないので撮影にもぴったりだったんです。それに自然光で見た色合い、ご覧になられたいですもんね。
ベランダの草花は仲良しのお花屋さんに頼んで、色々入れ替えてもらってたのです。建物が込み入った裏通りなんで向こうから見えないようにヨシズも下ろして、イイ感じでしょ?
窓辺の箪笥の最上段は、ほら、ずらりと江戸小紋の見本染めをご用意していました。この見本でお顔うつりを確かめて頂いて、これまで何百と言う江戸小紋をお染めしてきたんですよ。一本の巻物に数種類の柄を染めています。するする開くと、お誂えを承った時のお客様の様子や会話がよみがえってきます。大事な宝物です。
和室の隣の箪笥には、帯揚げや帯締めをぎっしり入れていました。コーディネートの最終兵器は小物ですものね。もうすっかり空っぽになりましたけど。
そうそうお店のオリジナルカラーで染めた帯揚げが並んでいる様子、素敵でしたね。
はい、私もいつも引き出してニマニマしてたんです。感謝祭りで一気になくなりました。ありがたいことです。
はい、店長さん、こっち向いてください。いやいや、恥ずかしいですよ~(>_<)。大丈夫です。とびきりキレイに撮りますから!笑って笑って。
えへ。。。このお店を切り盛りしてまいりました、店主でございます。店長さんとか、野村さんとか、女将さんとか、色々な呼び方で声をかけて頂きました。
あれ?その着物も「兎」模様ですね。はい、江戸小紋の「兎」です。なんやかんや申しても、私は実は無類の寂しがりやでありましたもので、この子たち皆でこのお店を切り盛りしてきたって思ってます。
それでは、最後のご挨拶を頂けますか?
う~ん、最後って思うと、何を言って良いんだか・・・モジモジ。。。
皆さま、とにかく、本当に本当に、ありがとうございました。御礼の気持ちは日々のブログでも様々にお伝えしてきましたが、もはや言葉では言い尽くせないほど、胸が張り裂けそうなほど、感謝申し上げております。
このお店の中で、毎日毎日色んなことがありました。とにかくたくさんのお客様をお迎えしてきました。先ほど暖簾を見てこんなに色あせてるなんて早く新しいの染めないといけないわ!なんてふっと思ってしまった自分にビックリしましたが・・・たくさんのご縁を頂いたこの場所は、本日をもって夢の中へと消えてまいります。
でも、夢ってイイじゃんと思います。もしかすると何年か後に、私と出会ったこと、この場所を訪ねて下さったことを、ぼんやり思い出されて、あそこは本当に実在したのだろうか?なんて思われるかもしれません。はたまた、あの店の名前は何だっけ?とか、なんかこの辺にいた兎いなくなったよね?と道行く人の何気ない会話に登場するかもしれません。
ずっと覚えていて欲しいなんてこと、思っちゃいけないな、私はすぅ~と消えていくのが好みです。
えっ!店長さんは、それで寂しくないんですか?
いやいや、めちゃくちゃ寂しいです。このところ毎日泣いてます。でもね、この世に永遠はないのですもの、いつかはその日が来るわけで、この場所のその日は今日だ、ということなんだと思います。
だから思うのです。お客様と出会い、多くのご縁を頂いたことは奇跡です。ここでは毎日奇跡が起きていました。でも奇跡は永遠を約束するものではありません。だからきっと、これからの皆さまや私の人生は、変わらず小さな奇跡を積み重ねるために続いていくのです。
あっ、いよいよ、行燈を消す時間となりましたね。
名残り惜しくてもったいない、とても素敵なお店でした。でも、もう本当に、お別れなのですね。。
そうですね。どうか、皆さま、とにかくお幸せでいてください。
そして、その幸せに、この奇跡の場所で結んで頂いたご縁が寄り添わせて頂けますように、そんな景色をず~っと想像して、新たな旅の準備を始めたいと思います。
お気持ちを寄せて下さいました全ての皆さまに、心より、ありがとうございました。
いつか
また
どこかで
💗
2023.10.31
染一会 店主 のむらゆかり
うさぎのお引越し先🐇
「ほわもわ」🤗→https://howamowa.com
*~ご注文のお品のお届け等について~*
・最後にお求めくださいましたお品たちは、染めたり仕立てたりして、順次お届けのご案内を申し上げてまいります。最後のお届けまで責任を持ってさせて頂きます。どうか安心してお待ちくださいませ。
・年内は、店内で閉店作業をいたします。メールやメッセージの送受信は可能です。何かございましたらお問合せください。
・こちらのサイトは、年末に非表示に切り替えをさせて頂きます。予告なしで非表示となりますこと、どうかお許し下さい。サイト内の画像や文章の “思い出保存” はご自由にお持ち下さいませ。でも(申し訳ないのですが)転用はお断りしておりますこと、何卒ご了承下さいますようお願いいたします。
ありがとうございました。
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