万筋、極鮫、そして万筋。万筋、極鮫、そして万筋。

2019年12月10日

万筋、極鮫、そして万筋。

本日は、江戸小紋の逸品文様「万筋」のことをお話したいと思います。

お店では「万筋」文様にご興味を持って下さる方に型紙をお見せしてご説明したり、過去の記事でも度々ご紹介してきております。とはいえ、初耳!の方もきっと多くいらっしゃることと思いますので、過去記事を引用しつつ、本日はその「万筋」のお話でございます。 ※明日のブログはお休みなので今日はちょこっと長めです(^^;)

「万筋」とは、細い細いタテ縞の文様のことです。当店のおあつらえ染めでは3㎝に19本の毛万筋・23本の万筋・26本の玉縞の三タイプをご用意しています。大変に微細なタテ縞は、数々の時代を超えてもなお究極の粋美と親しまれる文様です。

万筋の型紙

「万筋」の型紙は短時間で一気に、定規をあてて均等の縞柄を彫りあげます。単純な作業のようですが、一本の縞を彫るのに同じ箇所を3度続けて小刀でなぞるので、極めて正確な技術が必要とされます。しかし、縞を彫っただけでは、何本ものストライプの線がヒラヒラと浮き上がった状態のままです。このままでは染め師さんがヘラをあてることができず型付けができません。

上の画像は型紙のアップ写真です。タテ縞の間にはヨコに細い細い横糸が張ってあるのが見えるでしょうか?その横糸がヒラヒラを抑える重要な役割を担っています。

この型紙のすごいところは、その横糸を張る「糸入れ」という技術が施されているところです。

「糸入れ」とは、あらかじめ2枚の型地紙を重ねて縞を彫ってからもう一度2枚にはがし、その間に絹糸を張ってずれないように柿渋で張り合わせるという作業です。

伊勢型紙の産地には、昭和30年に6名の重要無形文化財保持者(人間国宝)が指定されましたが、その中には「糸入れ」の城ノ口みえさん(2003年死去)も入っていました。「糸入れ」は彫りの技術と同様に、大変に貴重な技術です。現在では、この糸入れの技術が最も稀少なものとなっているのです。

画像ではよく見えなくて申し訳ないのですが、染め上がった作品にも、糸入れの後がほのかにわかります。

この型紙で染め上げる「万筋」は何とも言えない味わい深い江戸小紋として、多くの江戸小紋ファンに愛されてきました。

単純なストライプだからこそ、微妙に異なる線の太さ。それがコンピュータのストライプとは異なる“しなやかさ”を生み出します。縞柄は「粋」な柄として江戸時代には大変もてはやされました。ストンと縦に落ちる縞は、小雨や柳に通ずるような色気があり、その粋な風情がたまらなく好まれたのです。

また、染め上げた時には、先ほどの「糸入れ」の後が随所に残るのが見えます。「糸入れ」をした細い絹糸が張ってあるところには、糸の下の生地までしっかりと防染糊がおりません。そのため地染めをした時に絹糸が張ってあったところも一緒に地色に染まってしまう部分が出てきます。なので、よ~く見ると、横に細~く、ところどころ、ヒュンヒュンと横線が見えます。写真でお伝えするのがなかなか難しいのですが、わかるでしょうか?

そのために、単純なストライプとは異なる、粋で色っぽい、味わいのあるタテ縞が染め上がるのです。

また、万筋の型紙のサイズは、ヨコは反物巾ありますが、タテは約15-6㎝しか彫られていません。これ以上の長さのものを彫ることは、上記のような型紙の工程を考えても非常に難しいもので、古来より型紙の中では最も短いサイズのものです。その型紙を反物一反約12.5m分型付けを繰り返すと、約80回の送りが必要になります。

しかし、縞模様というのは、一反の端から端まで、ラインがちゃんとまっすぐずっと繋がっていなければなりません。そのため、わずかなブレを手直しする「地直し」という工程が重要になります。染めの技術は型付けばかりでなく、この「地直し」もとても重要な技術なのです。

このように、微細な文様の江戸小紋は、精緻な型紙と染めの技術の両方が相まって初めて生まれる芸術品でございます。

 

でも、「極鮫」だって江戸小紋を代表する美しい文様ですよね。こちらは先日ご紹介した「極鮫」。

こちらは現在店内でご紹介中のグレージュ色の「万筋」

どちらも遠目には無地にしか見えないのに、これが不思議なぐらいニュアンスが異なります。同じように無地に見えても、やさしくふわりとした印象の「極鮫」と、気持ちの良い清々しさを感じる「万筋」。画像左が「万筋」、右が「極鮫」です。いかがでしょうか?

何しろ近づかないと柄目がわからない。近づいて初めてその細やかさに驚き、目がウルウルしてしまう。遠目には無地にしか見えないのに、むしろ無地にしか見えないように彫る・染める、細やかさを競ってきた職人さんたちの凄まじいまでの挑戦、その贅沢な美を求め尽くした古来日本人の飽くなき美意識にも、深く頭の下がる逸品なのです。

 

さらには、万筋も極鮫も、コーディネートの帯次第で多様なシーンに活躍するお着物です。

求めたのは「美」だけではなく、その心意気は着る人にも優しく寄り添います

本日は、モダンな色彩のお洒落袋帯「帯屋捨松オリジナル鉄柵文」コーディネートしてみました。

現代的な色彩のモダンな帯をこれほどまでに心地よく受け止めてくれるのは、やはり江戸小紋を置いて他にはないのでは?と思えてしまうほど、ピッタリです。

もちろん、お色が違っても、極鮫にだって、こんなに愛らしいコーディネートが仕上がります。

着物一枚に帯三本と言われますが、極柄や万筋の江戸小紋ならば、たぶんタンスの中のどんな帯だって包容力たっぷりに受け止めてくれます。それが江戸小紋の素晴らしい粋美でございますね。

※帯屋捨松袋帯「鉄柵文」詳細⇒こちら

現在、染め上がりの反物では「万筋」2色をご用意しています。もちろん、お好みのお色でのオーダー染めも常時承っております。ただ万筋のオーダー染めについては、通常よりも長いお時間を頂戴いたします。(通常1か月半⇒万筋2カ月半)まずはお下見から、どうぞ余裕を持ってご相談下さいますようお願いいたします。

☆明日の水曜日(12/11)勝手ながら臨時休業を頂戴いたします。12/12(木)からは通常営業でございますので、ちょっぴりお時間がおできになりましたら、どうぞ実物にも会いにいらして下さいませ。

<営業時間・定休日>

12/11(水)臨時休業

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