2019年10月8日
先週の「手描き友禅染め帯展」にてご案内してまいりました作品は、一部を除いて、それぞれ染め元や作家さんのところへと戻ってまいりました。
本当は一点一点、もっと丁寧にご紹介をしたかったのですが、何しろ駆け足で作品たちにもとても申し訳ない気分です。
もし先週はサイトを見てなくて、知らなかったよ~今気づいたよ(@_@。そんな方がありましたら、ちょこっとお問合せ下さいませ。もしかすると、気になるその作品、呼び戻してご覧頂くことができるかもしれません。いつものようにお気軽に(*^^)v
お店が急にガランとしたみたいでちょっぴり寂しいですが、でも!ぜ~んぶ居なくなったわけではなくて、なんと!人気の「染谷洋」先生の作品が、バージョンアップして今週の金曜日までご紹介できることになりました。水・木・金の3日間は、先週ご案内の作品に新しい作品もプラスして、店内にて、染谷先生の世界をご堪能頂けます。
今日は引き続き、個人的にもとても気に入っておりますこちらの作品を、たっぷりご紹介しようと思います。
万葉集「ほととぎすを詠む歌」の、花橘の中のホトトギスを描いた作品(染谷洋作)です。
素材はツルンとした塩瀬ではなくて、柔らかな光沢の地紋を感じる締め心地のよい縮緬地、明るい焦げ茶色の地色を染めるとモヤボカシのような風合いを感じます。
花橘の中を飛び回り、キョッキョキョと甲高い鳴き声を響かせて、草木を癒し目覚めをくれるホトトギス。
実は、このデザインは、万葉集のある長歌の一首を描いた作品です。
前帯はこちら(↓)ですが、通常の関東巻き(手先が最後に右側に出る巻き方)では、前帯になるのは、花橘とホトトギスの柄のある側です。文字側の部分は表に出ません。お召しになるお客様だけが胸に秘めて頂く歌。
勿論この文字こそ、その万葉集の一首でございます。
ちょっと息を飲む、味わい深い作品でもあり、作家さんの感性にドキッといたします。
今日はたっぷり、その歌もご紹介(*^^)v
鴬(うぐひす)の卵の中に霍公鳥(ほととぎす)
独り生れて 己が父に似ては鳴かず
己が母に似ては鳴かず
卯の花の 咲きたる野辺ゆ 飛び翔(かけ)り
来鳴き響(とよ)もし 橘の 花を居(ゐ)散らし
終日に 鳴けど聞きよし 賄(まひ)はせむ
遠くな行きそ 我が宿の 花橘に 住みわたれ鳥
~高橋虫麻呂(万葉集)
(意味)ウグイスの卵の中に、独り生まれたホトトギスよ、父のようには鳴かず、母のようにも鳴かず、卯の花の咲いている野辺を飛びかけて、鳴き響かせ、橘にとまって花を散らし、一日中鳴いているけれど、聞き飽きることはありません。ご褒美をあげるから、どうか遠くには行かずに私の家の花橘に住みついてくれませんか、鳥よ。
ホトトギスという鳥は、巣をつくって卵を温めてヒナを育てるという子育てをいたしません。そのため、ウグイスなどの他の鳥の巣に卵を預けます。卵の色が見分けがつかず、ウグイスはせっせとホトトギスの卵を温めて、ヒナに餌をあげるのです。しかし、この子違うじゃん!と気づかれる頃、ホトトギスは独り飛び立つのです。
生まれた時から、父も母も知らずに一人ぼっち、独りで生きて行かねばならぬのです、そんな孤独を背負ったホトトギスを歌った一首。鳥に心を寄せて慈しむ、作者の気持ちがシミジミとしみわたります。
ホトトギスが孤軍奮闘するその世界が、どうか優しい世界でありますように!の願いを込めて、本日はふんわりと包み込む色合いの小紋をコーディネートしてみました。
今年の秋の新作、大人ベビーピンクの絞り染め小紋です。帯のお色や橘やホトトギスを、しっかりと優しく迎え入れてくれる世界になったかな?ちょっぴり安心できたような気がします(*^^*)
実は、この歌には、長歌にそえる反歌というのがありまして、そこでは、ある雨の夜、そのホトトギスは、ごめん行かなきゃ!と鳴き声を響かせて飛び立って行ってしまいます。
かき霧(き)らし雨の降る夜をほととぎす
鳴きてゆくなりあはれその鳥(虫麻呂)
それでも、どうか、お前の帰る場所はここよ、いつでも待っているからね。
孤独、それは何もホトトギスばかりではありませんが・・・わけもなく切ない気持ちが込み上げて、ジンワリと心に深く落ちて来て、どうしても忘れられない作品です。
※帯のお値段は当店催事特別価格。どうぞお問合せ下さいませ。
※コーディネートの小紋 絞り染め小紋「織部写し」詳細⇒こちら
どうやら今週は台風が接近するかもしれないようです。台風が来る前に、ちょこっとお店に遊びにいらっしゃいませんか?相変わらず爽やかな秋が待ち遠しいですが、今週も元気にお店番をいたしております。どうぞ、お目にかかれますのを楽しみにお待ちしております。
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